SPECIALTY ALLOYS
取り扱い特殊合金

コバルトベース

耐摩耗・耐熱・耐食の
コバルトベース合金

井田熔接では、過酷な環境下で求められる「耐熱性」「耐食性」「耐摩耗性」を満たすコバルトベースの特殊合金を用いた肉盛溶接を長年にわたり行ってきました。特に代表的なステライト合金とトリバロイ合金は、それぞれ異なる特性を活かして多様な現場で活用されています。

ステライト合金

耐久性の極み。耐熱性×耐食性×耐摩耗性の最高峰。

ステライトとは?

ステライト®(Stellite®)は、コバルトを主成分とし、クロム・タングステンを含み、さらに少量のモリブデン・鉄・炭素などを含む非鉄合金です。硬質で、耐磨耗性・耐食性・耐高温酸化性に優れます。
この3つの特徴を併せ持った合金でステライト以上は考え難いとされています。またこの特性は1,500~2,000Fまでの高温環境でもほどんど変化しません。
この優れた特性から、航空機や船舶のエンジン部品、発電設備、化学プラントなど、極めて過酷な条件下で使われる重要部品に広く使用されています。
ステライト(Stellite®)はkennametal Inc.の保有する登録商標です。
ビシライト(BISHILITE ®)はProterial Ltd.の保有する登録商標です。

ステライト合金

ステライト種類

品種 色別 製品の種類 AWS規格
(アメリカ溶接協会)
用途
ステライトNo.1 ガス溶接棒
TIG溶接棒
ERCoCr-C 類似 製鋼、合板工業のカッターナイフなどの肉盛に使用されます。
ステライトNo.6 ガス溶接棒
TIG溶接棒
ERCoCr-A バルブの弁座、弁体、内燃機の排気弁などの肉盛に使用されます。
ステライトNo.12 ガス溶接棒
TIG溶接棒
ERCoCr-B バルブの弁座、弁体、シェンソーガイドバーなどの肉盛に使用されます。
ステライトNo.21 ガス溶接棒
TIG溶接棒
ERCoCr-E 衝撃の加わる高温高圧バルブ、熱衝撃の加わるホットシャーなどの肉盛に使用されます。
ステライト合金
ステライトNo.1

非常に硬く、機械加工が困難、溶接施工の難易度も高い

ステライト合金
ステライトNo.6

最も汎用性の高いステライト合金、迷ったらまずこれ

ステライト合金
ステライトNo.12

No.6より硬く、No.1より加工性あり

ステライト合金
ステライトNo.21

金属間化合物が少なく延性良好、割れが気になる箇所に是非

ステライト化学成分

品種 Co Cr W C Fe Ni
ステライトNo.1 Bal 30 12 2.5 3
ステライトNo.6 Bal 28 4 1 3
ステライトNo.12 Bal 29 8 1.35 3
ステライトNo.21 Bal 27 0.25 2 2.5 Mo:5

ステライト物理的性質

品種 比重 融点(℃) 熱膨張係数
(30〜600℃)
硬さ HRC 引張硬さ
(kg/㎣)
弾性係数
(kg/㎣)
ステライトNo.1 8.48 1270 13.8×10⁻⁶ 50〜58
ステライトNo.6 8.47 1285 14.2×10⁻⁶ 39〜46 78 21.000
ステライトNo.12 8.42 1290 14.6×10⁻⁶ 45〜52 85 21.000
ステライトNo.21 8.30 1300 13.5×10⁻⁶ 約35 91 21.000

主要な用途

「耐熱性×耐食性×耐摩耗性」で選ぶなら、最も信頼性と汎用性が高い合金。

  • ■ 金型・刃物・工具類

    • 高い硬度と耐摩耗性を活かして、パンチ・ダイ・ホルダー・刃物の肉盛補強・補修
    • 金属成形・切断工具の先端部やエッジ部の再生
  • ■ バルブ・シート

    • 高温・高圧にさらされる回転・摺動部(バルブシート、バルブディスク、スピンドル部など)の補強・補修
    • スチーム、熱媒体、薬品ラインの密封部・接触面
  • ■ 高温構造部品・炉周辺部

    • 約800℃の高温下でも性能が落ちにくい特性を活かし、
      高温炉・ボイラー・熱処理装置などの耐熱補修に使用
  • ■ タービン・発電設備部品

    • タービンブレード、軸端、摺動軸などの高熱+摩耗が同時に発生する重要部品
  • ■ スクリュー・シャフト部

    • 摩耗と腐食が同時に進行する環境での軸受部・ねじ部の補修
    • プラスチック、ナイロン、マイカ、フィラー、硫黄などの混合物での耐摩耗・耐食

ステライト豆知識

  1. 1.由来

    1907年に米国のElwood Haynesによって開発されました。「Stellite」の語源は、「Steel(鋼)」+「‑lite(石のように硬い)」という意味が含まれているとされます。

  2. 2.硬い=持ちが良い?

    と思われているお客様が多くいらっしゃいますが、全てにおいてそうではありません。もちろん高硬度が必要な品物もありますが、割れたり、欠けたりでお困りであればステライト21番やステライト6番で検討したほうが、持ちが良くなる場合があります。

  3. 3.硬度の高低差・幅は何であるの?

    (例)ステライトNo.6 HRC39~46と硬度に差があります。
    これは施工法により硬度に変化が起こるからです。
    TIG溶接➡HRC約39~43
    GAS溶接➡HRC約42~46 ※アセチレンガス溶接法
    と変化します。
    ステライトNo.21において硬度に幅がないのはTIG溶接での施工に限られるからです。

ブレード軸 摺動面 弁棒シート部
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トリバロイ合金

耐摩耗 × 耐食 × 高音耐熱。さらなる高温に耐えるなら、トリバロイ。

トリバロイとは?

トリバロイ(Tribaloy®)は、ステライト合金の高い耐摩耗性と、ハステロイ合金の優れた耐食性を融合させた、極めてバランスの取れたハードフェーシング用合金です。コバルトを主成分としてモリブデン・クロム・シリコンを含有しており、広範な温度環境下でも安定した耐摩耗性を発揮します。
この合金の最大の特長は、高温下においても硬さを保持できる点に加え、蒸気・酸・塩分などによる化学的攻撃に対しても優れた耐性を示すことです。加工性は極めて低いため、仕上げには通常、精密な研磨処理が必要です。
特に注目すべきなのは、硬度の高さと摩擦係数の低さを兼ね備えている点です。これにより、繰り返し摺動や衝撃を受ける環境でも相手材を過剰に摩耗させることがなく、部品の相互寿命を延ばすことが可能となります。
また、酸性環境、塩化物を含む流体、湿潤な雰囲気といった金属にとって過酷な条件下においても、性能を長期間維持できるため、化学プラント設備、海水ポンプ、スクリュー、回転軸、シャフト端部など、高耐久性が求められる用途での補修材として重宝されています。
トリバロイ(Tribaloy ®)はkennametal Inc.の保有する登録商標です。

トリバロイ合金

トリバロイ種類

品種 色別 用途
トリバロイT-400 ピンク 機械摩耗部品、バルブシート、スリーブ、油田機器、化学プラント、高温・高圧環境下の摺動摩耗部品などに使用されます。
ステライト合金
トリバロイT-400

トリバロイ化学成分

品種 Co Cr Mo C Si
T-400 Base 8.5 28 <0.08 2.5

トリバロイ物理的性質

品種 比重 融点 硬さ(HRC)
トリバロイT-400 7.8 約1288℃ 51〜58

主要な用途

トリバロイは、特に「ステライトよりも更なる高温化での環境(800℃以上)」に耐える
耐熱のスペシャリスト。施工難易度は高いですが井田熔接にお任せください。

  • ■ ポンプ部品(シャフト・リング・インペラー)

    • 海水・薬液・スラリーが流れる中で、摩耗と腐食を同時に受ける箇所の補修
    • 高回転・高圧条件下でも割れにくく、長期間の使用が可能
  • ■ 攪拌機・スクリュー・ミキサー類

    • 粘性流体・粉体処理などで発生する摩擦と衝撃の繰り返しに強い
    • 低摩擦かつ高硬度のため、相手材を傷めずに耐久性を確保
  • ■ シャフト・軸受・ガイド部品

    • 化学装置や食品機械など、腐食と負荷が複合する箇所
  • ■ 航空機関係・ガスタービン等

    • 燃料を連続的に燃焼させて高温・高圧のガスが発生。耐熱・耐摩耗性を発揮
    • エンジン部品など高温が続く環境で耐熱、耐摩耗性を損なわず心臓部を守る
  • ■ 化学プラント設備・タンク内構造部

    • 酸性・塩化物・湿潤環境に長時間さらされる腐食性の強い環境下での補強
    • ステライトでは耐食性に不安がある場面でも安定して使用可能
  • ■ 摺動部・ベアリングシート・リング部

    • 摩耗+振動や衝撃が発生する部位での耐久補修
    • 相手材を傷めにくいという特性を活かした低摩擦補修

トリバロイ豆知識

  1. 1.由来

    「Tribaloy」という名称は、Tribology(トライボロジー=摩擦・摩耗・潤滑の科学)に由来する言葉です。

  2. 2.摺動性最後の砦?

    GE社(General Electric)が開発した当初、ジェットエンジンの回転子軸受部で通常合金が破損したケースに対し、トリバロイは「焼き付かず滑ったまま生還」したという記録があります。

ブレード軸 摺動面 弁棒シート部
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